大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和63年(ラ)150号 決定 1988年10月12日

抗告人

サンシャインビルディング株式会社

右代表者代表取締役

古 川 統 一

主文

原決定を取り消す。

別紙物件目録記載の不動産につき、抗告人を最高価買受申出人とする売却を許可しない。

理由

一本件執行抗告の趣旨は主文同旨の裁判を求めるというのであり、その理由は、別紙「理由書」の写しに記載のとおりであって、要するに、本件競売不動産を表示する別紙物件目録には仮換地の記載がなく、その評価書(以下「甲評価書」という。)では同目録記載(1)の土地(以下、同目録記載の不動産を「(1)の土地」などという。)の仮換地の地積が四一平方メートルとされているが、原裁判所には訂正前の評価書(以下「乙評価書」という。)も備え置かれて閲覧に供されており、抗告人は、たまたま乙評価書のみを閲覧し、これに記載されていた(1)の土地の仮換地の地積一八六平方メートルを基にして五四一一万円の入札価額で買受けの申出をしたものであって、競売不動産の地積に関し錯誤があったから、右の買受けの申出は無効であるというのである。

二そこで検討するに、一件記録によれば次の事実を認めることができる。

1  抵当権者である相銀住宅ローン株式会社は、債務者岩﨑徹所有の別紙物件目録記載の不動産について競売を申し立て、昭和六一年八月二六日、競売開始決定がなされたこと、右目録記載の土地の表示は登記簿上のそれと同じであるが、この土地については土地区画整理事業が進行中であり、既に仮換地の指定がなされていること

2  本件につき浦和地方裁判所越谷支部執行官の作成した現況調査報告書には、土地区画整理事業施行者作成の昭和五五年一一月六日付け証明書が添付されており、これには(1)の土地の仮換地(ブロック番号三三符号三―三)の地積は一八六平方メートルと記載されているが、本件の現況調査報告書には右以外に仮換地の地積に関する記載はなく、その後、補充的な現況調査も行われていないこと

3  本件につき評価人小山光男の作成した乙評価書(昭和六一年一一月二一日提出)においては、(1)の土地は右の証明書に記載された仮換地の地積一八六平方メートルを基礎として七四四万円(底地価格)と評価され、競売不動産の合計評価額は三四一九万一〇〇〇円と算出されていたこと

4  原裁判所は、昭和六二年八月二一日、右の評価に基づき最低売却価額を三四一九万一〇〇〇円(一括売却)と定めるとともに、物件明細書を作成したが、右の物件明細書では競売不動産は別紙物件目録記載のとおりと表示され、その備考欄には「仮換地指定がある。」と記載されており、右の物件明細書の記載は、その後、追加変更されていないこと

5  原裁判所は、競売不動産を期間入札に付することとし、昭和六二年九月四日、いったん入札期間、開札期日及び売却決定期日を定め、同月八日に期間入札の公告をするとともに同日から物件明細書・現況調査報告書・乙評価書の各写しを一般の閲覧に供すべく書記官室に備え付けたが、同月二二日、右期日を取り消し、評価人小山光男に対して競売不動産の再評価を命じたこと

6  再評価命令に基づき同評価人が作成した甲評価書(昭和六二年一一月二日提出)においては、(1)の土地の仮換地は前記のブロック番号三三符号三―三(地積一八六平方メートル)とブロック番号四〇符号一二(地積一五六平方メートル)の二箇所に分割して指定(両土地間は直線距離で約五〇〇メートル)されており、債務者岩﨑徹は前者のうち北側約四一平方メートルのみを利用しているとして、これを基礎に(1)の土地は一六四万円(底地価格)と評価され、競売不動産の合計評価額は一九六九万一〇〇〇円と算出されていること

7  原裁判所は、昭和六三年一月五日、右の再評価に基づき最低売却価額を一九六九万一〇〇〇円(一括売却)と変更し、更に同月一二日、入札期間を同年二月二日から同月九日までと、開札期日を同月一六日午前一〇時と、売却決定期日を同月二三日午前一〇時と定めて競売不動産を期間入札に付したこと、同じく同年一月一二日になされた期間入札の公告においては、競売不動産は別紙物件目録記載のとおりと表示されていること

8  同裁判所執行官において右の開札期日に開札したところ、抗告人から五四一一万円、他の八名から二二三五万円ないし三六四六万五〇〇〇円の入札価額をもって適法な入札がなされており、原裁判所は、昭和六三年二月二三日、最高価買受申出人である抗告人に対する売却許可決定(原決定)を言い渡したこと

9  なお、抗告人の所持している金融業界紙には、(1)の土地の仮換地はブロック番号三三符号三―三、その地積は一八六平方メートルと記載されていること

三1  右8の事実によれば、抗告人の入札価額五四一一万円は他の八名の買受申出人の入札価額に比べて著しく高く、その余の認定事実をも併せ考えると、抗告人が右の入札価額をもって買受けの申出をしたについては、その主張するように(1)の土地の仮換地の地積に関する認識の誤りがあった可能性を否定し得ない。

2  ところで、競売の対象である土地について土地区画整理法九八条一項による仮換地の指定がなされている場合には、競売の対象は依然として従前の土地であるものの、従前の土地の所有者はその使用収益を禁じられる代わりに仮換地の使用収益権限を与えられているのであり、将来右の仮換地の指定どおり換地処分のなされる蓋然性が高い(殊に、本件においては、債務者岩﨑徹は(1)の土地の共有持分三四二分の四一を有するものであるところ、前記二6に認定したとおり(1)の土地の仮換地として二区画合計三四二平方メートルの土地が指定され、右岩﨑はそのうちの約四一平方メートルを占有しているというのであるから、右占有部分は右岩﨑の共有持分の割合にも一致しており、また、甲評価書によると、右占有部分は同人の単独所有である(2)及び(3)の土地の仮換地に隣接し一体となって(4)の建物の底地を形成していると認められる。)から、執行官による調査(民事執行法五七条)は仮換地の形状、占有関係その他の現況をも対象として行われ、評価人による評価(同法五八条)は仮換地の位置、形状、地積等に照らして行われるべきであるとともに、執行裁判所の作成すべき物件明細書(同法六二条)及び裁判所書記官のなすべき売却の公告(同法六四条四項)には、原則として従前の土地の表示と同時に仮換地の表示を併記する必要があると解される。

しかるに、本件においては、前記認定のとおり、(1)の土地の仮換地のうち債務者岩﨑徹の利用する部分はブロック番号三三符号三―三(地積一八六平方メートル)の中の約四一平方メートルにすぎないとされ、これを前提とした評価がなされている(甲評価書)ものの、評価書と共にその写しが一般の閲覧に供される現況調査報告書では(1)の土地の仮換地の地積は単に一八六平方メートルとされており、また、物件明細書、更には期間入札の公告においては、競売不動産の表示は別紙物件目録記載のとおりとされ、仮換地の地積は全く表示されていない。

3 そうすると、本件においては、一括売却の対象となっている競売不動産のうち(1)ないし(3)の土地につき仮換地の指定があって、その減歩率が約二七パーセントに及んでいる場合であるのに、物件明細書及び期間入札の公告に従前の土地のみを表示して仮換地の表示をせず、右物件明細書の写しと共に一般の閲覧に供された現況調査報告書の写しの記載とあいまち、(1)の土地の仮換地の地積(債務者岩﨑徹の共有持分に相応する使用収益部分)が実際には約四一平方メートルにすぎないのにこれを一八六平方メートルと誤認させるような表示をしたまま売却を行った違法がある。そして、右の違法が競売不動産全体の売却に影響を及ぼしたものと認められるから、本件における物件明細書の作成及び売却の手続(民事執行法六四条四項)には重大な誤りがあるといわざるを得ず、本件競売不動産の売却については民事執行法一八八条の準用する同法七一条六号及び七号の不許可事由があるものというべきである(なお、抗告人は、買受けの申出に関する錯誤をいうが、ひっきょう原決定につき右の点の違法を指摘するものと解されるから、本件執行抗告は理由がある。)。

四よって、原決定は失当であるからこれを取り消し、別紙物件目録記載の不動産につき抗告人を最高価買受申出人とする売却を許可しないこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官友納治夫 裁判官小林克已 裁判官河邉義典)

別紙物件目録

(1) 所在 草加市稲荷町字上根通

地番 壱六七八番

地目 田

地積 四六九平方米

所有者岩﨑徹持分参四弐分の四壱

(2) 所在 草加市稲荷町字上根通

地番 壱六七七番壱

地目 田

地積 七六平方米

(3) 所在 草加市稲荷町字上根通

地番 壱六七七番弐

地目 田

地積 六六平方米

(4) 所在 草加市稲荷町字上根通壱六七九番地

壱六七六番地壱・壱六七七番地壱

(換地同所予定地番参参街区参―壱画地)

家屋番号 壱六七九番の弐

種類 居宅店舗

構造 木造スレート葺弐階建

床面積 壱階六壱.六九平方米

弐階弐六.四九平方米

以上所有者岩﨑徹

別紙理由書

抗告人は、御庁昭和六一年(ケ)第三二八号の二月一六日開札において、最高価格落札人となりましたが、この評価の基礎となった物件の土地面積について、重大な錯誤がありました。と申すのは、競落した物件の資料が必要な為、二月一八日御庁備え置きの物件備覧書(俗に言う三点セット)をコピーして頂いたところ、評価書が二通あったことに気付いた次第です。一つを甲評価書、一つを乙評価書と致します。

抗告人が当初入札前に調べた評価書は、乙評価書の方で、その時には甲評価書はありませんでした。今にして思えば、心なき方がちょっとコピーしに帰り、後で返しておけばそれで良いとでも考えられたのでしょうか? 甲評価書の存在すら知らず、乙評価書の計算の基礎となった仮換地指定面積物件(1)の一八六m2と物件(2)の一〇三m2とで、二八九m2=約八七.五坪と割り出した結果、五四一一万円と高からず、安からずの価格で入札したつもりでした。

もっとも乙評価書の合計金額三四、一〇九、〇〇〇円と、最低競売価格一九、六九一、〇〇〇円の差額のあることは知っておりました。だが、これはよくあることで、競落出来ない物件は前回より下ることもあり、その時は評価額と一致しないこともあり得ると思っていましたので、疑問には感じませんでした。

もち論物件目録もよく目を通しました。しかし、これは換地前のものであり、登記謄本の表題部の確認のためのものに過ぎないと思い、実質地積は計算の基礎となった、物件(1)の一八六m2+物件(2)の一〇三m2=二八九m2にあると考えざるを得なかったことであります。

しかるに、本日、甲評価書の存在あることを知り、又、その内容を検討しましたところ、物件(1)の一八六m2が四一m2となっている事を知り、驚いた次第です。確かに甲評価書を見ていれば誤ることはなかったと思いますが、先に申した予測出来ない事故のため、乙評価書のみによった抗告人は、思わぬ損失を招く怖れとなりました。

もし、乙評価書が備えてなかったなら、このような錯誤はなかったものと思います。その意味では、乙評価書は、当競売事件とは全く関係がなく、むしろ無かった方が人々の誤解を招くこともないと考えます。何故御庁が、乙評価書を並列されたのか、理解に苦しむ次第です。これは当抗告人のみが誤解したのではなく、添付書類の内報と銘打った業界通信紙にも同様の誤りをおかしております。

こうした、誤ってはならない業界紙でも誤解して、報知していることは、そこになにか誤解させる問題があったと考えざるを得ないのです。

一般に競売物件は広く、多くの人々にも買えるよう、様々の努力が払われていると、聞きおよんでおります。素人の方々でも買えると言うことは、御庁への熱い信頼があればこそと考えております。この期待と信頼をおくみ取り下さいまして、錯誤の為無効とされ保証金を返還下さいますよう、御願い申上げます。それが出来ぬとされるならば、せめても、入札資格のはく脱だけは、御勘弁下さるよう御取はからい下されば、幸いに存じます。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例